革新の連続から生まれた新しき茶器

茶道とともに発展してきた京焼は、茶人たちの美意識に沿って多様な作風を創造してきました。嘉祥窯は京焼の伝統を受け継ぎ、伝統を礎に古き良いものに学びつつ、新しい作風を生み出し続けている窯元です。この6月、「ピエール・エルメ・パリ ブティック」と嘉祥窯のコラボレートによる、新しいアフタヌーンティーがお目見えます。嘉祥窯四代目当主の森岡嘉祥さんと当ホテルで働くピエール・エルメ・パリのシェフ・パティシエ、ドゥマネ・レジスの感性が美しく昇華した、アフタヌーンティーのための新しい茶器について、お話いただきました。

Kasho Morioka

嘉祥窯 四代当主 森岡嘉祥さん

三代目・森岡嘉祥の長男として、京都五条坂に生まれる。1993年、京都市立銅駝美術工芸高校 陶芸科卒業後、父・三代目嘉祥に師事。以後、新宿伊勢丹、千葉三越などで親子展を開催。父・嘉祥と共に、中国・景徳鎮窯にて呉須染付絵、五彩、豆彩、釉裏紅を、さらに中国・龍泉窯にて砧青磁、杭州官窯青磁を制作。1998年、滋賀県甲賀市信楽町に陶芸リゾート 嘉祥窯 紫香楽(しがらき)山荘をオープン。穴窯を築窯し、穴窯焼成の研究に取り組む。イタリア・ベネチアでのガラスと陶磁器の融合作品研究や、米国・サンディエゴ Balboa Museum Japanese friendship Gardenにて個展を開催するなど海外でも活躍。2009年、四代目・森岡嘉祥を襲名。

フランスと日本の感性の出会い

もともとうちの窯とザ・リッツ・カールトン京都さんのご縁は、先代(父)の時代に遡ります。こちらの「日本料理 水暉」の三浦雅彦料理長と父が親しくさせていただいていたことから、今回のご縁に繋がりました。アフタヌーンティーの茶器をつくるにあたってのテーマは「和」。和の感覚をベースに、このラウンジの空間に美しく映える茶器をつくりたいとまず、考えました。最初は、本棚のようなスクエアな形の棚を試作したんです。レジスシェフに見てもらうと、少しイメージがちがったんですね。まず、棚の天井部分が覆われているので、照明がお菓子に届かず、全体に暗くなってしまうこと、また、棚自体がボリュームのある形なので、テーブルに置いた時に重たい印象になるのが気になるとのことでした。実は、もう1つ、温めていたアイデアがあったんです。スタンドをお寺の三重塔に見立てたデザインについて話した途端、レジスシェフも「ナイス!素晴らしい!」とすごく喜んでいただいて、こちらも手応えを感じ、「よし、それでいこう!」と方向を定めました。当初、木工関係の知人に頼んで京都産の檜で、円錐形の立体の芯をつくり、そこに大・中・小のサイズ別のフラットなプレートをはめるデザインにしていました。その試作品が待ちきれず、自分でプロトタイプをつくったんです。檜を細い棒状にしたものを円錐形になるように組んだもので、仮制作ではあったんですが、こちらの方が魅力あるデザインだと直感しました。円錐形の立体にしてしまうと、全体に重たい感じがするのと、向こう側に抜け感がないので、裏側に配置したお菓子が見えないのです。ところが棒状であれば、軽やかになってデザインにリズムが生まれ、さらに抜け感があるので、向こう側のお菓子がすべて見えて、楽しさも美しさも倍増したんです。シェフも非常に気に入ってくださったので、こちらを採用しました。シェフとは感覚的に非常に近いというか、最初から気持ちが通じ合い、この人となら面白いことができるとお互い思えて、良いスタートが切れたと思います。

共通する真摯な姿勢

三重塔をかたどった大・中・小のフラットなプレートは、ドーナツ型で真ん中に穴を開けています。実はこの穴の直径が2ミリ大きくなると、プレートの止まる位置が1センチも下がるのです。シェフが置きたいグラスの高さやお菓子の配置バランスに影響するので、精密な機械で作るぐらい、精度の高いものを求められました。「こんなん出来ませんか?」と問われて、「できない」とは言えない、言わないのが、京都のものづくりに携わる者の矜持。私ももちろん出来ない、とは言いませんが(笑)、このプレートをつくるのはかなり苦労しました。プレートはまず、多くのお菓子を載せるので、真っ平らに仕上げたいと思いました。やきものを成型して乾かす時は、通常、木の板に並べるのですが、このお皿だけは完全なフラットにしたかったので、このプレート専用の乾燥用板を真っ平らなアルミでつくることにしました。アルミ板の製造を頼んだのは、精密機械の会社さんですが、まさかのアフタヌーンティーに関わる仕事をされるとは、思っていなかったでしょうね(笑)。吟味し尽くした素材を使い、見えないところに手をかける。それが京都の手わざを支える姿勢というか、スピリットだと思いますが、シェフ曰く、ピエール・エルメのつくり出すパティスリーも、吟味を重ねた素材を惜しげなく使い、でも、さりげなくシンプルに仕上げているのだとか。ところが実際は、とても手の込んだつくりになっているんです。一口食べてみるとそれがよくわかりますが、重層的な味わいと完璧なバランスには、ほんとうに驚かされます。そして、なによりもエレガンスに満ちたデザインと味はさすがというほかありません。お菓子をいただいた時、ピエール・エルメの妥協のない仕事の姿勢がしっかり伝わってきました。ピエール・エルメ・パリのお菓子にぴたりとフィットして、しかし自己主張しすぎず、美しい”和”をコンセプトにした茶器を絶対につくらなければ!と決意を新たにしました。

美しくゆかしい「tou」と「ryu」

成型、焼成、釉薬など様々に試行錯誤の末、ようやく完成したのが、この「tou」です。言葉の響きから塔、陶などいろいろなイメージを広げていただけるのではないでしょうか。「tou」は、プレートの色彩もポイントとなっています。下段は緑青(りょくしょう)の色。中段は淡い黄瀬戸の色。そして上段の色はとくにシェフのこだわりが込められていて、ピエール・エルメ・パリ ブティックのペーパーバッグに使われているピンクを使いたいとのことでした。淡いピンクに白釉を細やかに散らして、無地とは異なる、動きのあるデザインに仕上がったとおもいます。
一人用プレートは、黒い器の上に緑青のフラットプレートをのせて、さらにその真ん中に、同心円の小さなプレートを組み込こんでいます。三日月のような隙間に指をかけると蓋が開いて、中身がみえる仕掛けになっています。なにが入っているのか、これも今後、サプライズな演出がさまざまにできると思います。太陽と月を表す「日月(じつげつ)」をイメージしています。一人用プレートの銘は「ryu」。こちらも、流や龍など、自由な感じ方を楽しんでほしいです。取り皿や単体のお菓子をのせるプレートは、円や禅の円相ほか、水紋や蓮の葉のモチーフを取り入れたものなど、バラエティ豊かな意匠を考えました。蓮の葉に、ピエール・エルメ・パリの代表的なパティスリー、イスパハンをそっと置くと、ほんとうに睡蓮の花のように見えるんですよ。

京の、日本の、技の精緻を結晶

創作の中で常に意識したのは、ただ美しさだけを追求するのではないということでした。あくまで道具として使うものですから、お客様の使いやすさはもちろんのこと、持ち運びやすさやサービスのしやすさ、特にどうすれば美しい所作でサービスできるかが大切。重さや大きさ、持ち手の形などを工夫して、使いやすく、かつエレガントで、そして見た目も美しく楽しい、ほんものの用の美を追求しました。釉の色合いや飾りの文様は、鴨川の流れや東山の稜線、桜の京都など、京のさまざまな風景からインスパイアされたものが多いですが、お客様にリマインドしていただけるような、心のひだに優しく刻まれる素敵な京の印象を残せたら嬉しいですね。 それから、シェフはすぐ気づいてくれたのですが、芯の棒から時折、檜の香りをふんわりと感じていただけるかもしれません。ただし、お菓子の邪魔をしないよう、香り立ちを控えめにする工夫も施しています。こんな風にいろいろな思いと技が一つになって、他にはない、ここだけのオリジナルのアフタヌーンティーの茶器が完成しました、これはまさに京都の、日本の、技の精緻を集めて作り上げたもの。和洋が融合した「ザ・ロビーラウンジ」の空間で、これもまた、和洋の感性が一つになった新しいアフタヌーンティーの世界を、ぜひ、たっぷりとお楽しみください。

「ピエール・エルメ・パリ」
シェフ・パティシエ、ドゥマネ・レジス

今まで、日本の器は、渋くて重くてちょっと暗いイメージがありましたが(笑)、嘉祥さんと一緒に仕事をさせていただいて、ガラリと印象が変わりました。「tou」も「ryu」も本当に素晴らしいですね。全体に雅びな和のイメージがありながら、軽やかで明るく、上品なポップさも持ち合わせていると思います。フォルム、色彩、風合い、その全てが海外の人のみならず、日本の方をもきっと魅了するでしょう。今からお菓子をどうディスプレイしようか、どんな演出を添えようか、私自身も楽しみなんです。「tou」も「ryu」も、お菓子がとても美しく映えますし、お客様もワクワクとした気分で、一段とおいしく感じて召し上がっていただけると思います。お客様にお出しする瞬間、どんな表情をされるか、待ち切れませんね。

「日本料理 水暉」
三浦雅彦料理長

若かりし頃、器のこと、茶道について学びを深めたいと京都に通っていましたが、その時になんとご自宅に泊めていただいてご指導くださったのが、嘉祥窯の先代、つまり森岡さんのお父様でした。青磁は中国・龍泉、染付は中国・景徳鎮にて実際に制作するなど、常に本物を追い求める方で、その姿勢にも多くを学ばせていただきました。当代のことは、まだ小さい頃からよく知っていますよ。ですから、今回、「ザ・ロビーラウンジ」のアフタヌーンティーの和洋の融合というプロジェクトの相談があった時、迷わず、その瞬間に嘉祥窯さんに電話をしていました。私自身、このコラボレートをとても楽しみにしています。素晴らしい仕上がりで本当に嬉しいですが、おそらく先代がずっと見守って、導いてくださったからだと思います。京の美意識とピエール・エルメ・パリの感性が一つになったアフタヌーンティーをぜひ、ご堪能ください。

6月のアフタヌーンティー

サティーヌ
パッションフルーツとオレンジをつかった爽やかな味わいを揃えます。

6月22日からのアフタヌーンティー

“Afternoon Tea” Menu

ザ・ロビーラウンジでのアフタヌーンティーのご予約はこちらから

075-746-5522(レストラン予約直通:9:00 – 18:00)
http://www.ritzcarlton-kyoto.jp/restaurant/lobbylounge.html

ザ・ロビーラウンジ