伝統を礎にして柔軟に。

1624(寛永元)年創業。唐長は、江戸時代から唯一途絶えることなく続く、唐紙屋です。文様が彫られた板木を使って、和紙に色をのせた唐紙は襖や壁紙に用いられてきました。桂離宮や二条城といった歴史的建造物の襖は今に受け継がれる唐長の仕事です。またその一方で、照明やカードなど、ライフスタイルの変化に合わせた新しい試みも人気を呼んでいます。伝統を礎にして柔軟に。これこそが、100年後へ、受け継いでいくための秘訣かもしれません。これから古都、京都で新たな時を刻んでいく、ザ・リッツ・カールトン京都は、唐長のクラフトマンシップに共鳴。十二代目千田聖二さんにお話しをうかがいました。

Seiji Senda / Karacho

千田 聖二さん

1970年、唐紙の老舗「唐長」の長男として生まれる。19歳から唐紙づくりに携わり、室内における唐紙のあり方をより深く探求すべく、建築士の資格を取得。2011年、スターバックスコーヒー京都三条大橋店のリニューアルにてパネルデザインを提案、精華大学にて講師を務めるなど唐紙の可能性を広げるべく、幅広く活躍する。ザ・リッツ・カールトン京都ともオリジナリティのある企画を予定。2014年は、父である11代目千田堅吉より12代目を継ぐ、節目の年に。

数百年の時をかけて磨かれた今に息づく、唐紙の技法。

吉祥を表す七宝文様の唐紙と板木

唐紙は、その呼び名から想像できるように、平安時代に遣唐使によって伝わったといわれます。美しい模様があしらわれた貴重な紙で、位の高い僧や貴族の写経や書に使われていました。海を渡って運ばれるので、調達が難しい。身近で作れたらというのが、唐紙師の始まりだったと思います。
今に伝わる技法は500年ほど前、室町時代に生まれました。職人の手によって数百年かけて技術が磨かれ、それと共に用途も広がり、襖や衝立、壁紙として、室内装飾に用いられるようになったのです。桂離宮や二条城をはじめ、京都のみならず全国の歴史的建造物で使われ、私たちが今もその多くを担っています。桂離宮は64年に一度、襖一枚に12枚の唐紙を作るのですが、11代目である父の千田堅吉が4000枚を手がけました。昭和の大改修の際に父と祖父が手がけています。二条城は25年に一度。

時代を越えて、400年。唯一続く、その力の源とは。

雅な公家好み、武家好みの文様が収容される板木蔵

唐長に残る文書によれば、1839(天保10)年には京都に13軒の唐紙師があったと記されています。その中で今も続くのは唐長のみです。初代、唐紙屋長右衛門は、もともと御所に関わりをもつ武士でした。ご縁があって御所の仕事も手がけてきましたが、400年の間にはやはり厳しい時代もあったようです。需要が少なく存続が危ぶまれた代もあれば、大火に見舞われ、井戸に見本帳を投げ込み、辛くも難を逃れたことも……。数々の困難を乗り越えてこられたのは、御所をはじめ寺社仏閣を支える一端を担い、仕事、家族、職人が一心同体でやってきたからだと思います。昔は名前を襲名しましたから千田家の仏壇には何代もの長右衛門の位牌があります。板木を彫る職人、平八もその名を襲名し、同じように位牌が祀られています。代々大事に守ってきたものを、私たちも守っていかねばならない、やはり使命を感じます。家業として誠心誠意取り組んできたからこそ、こうして今に受け継ぐことができたのでしょう。

手仕事だから叶う 唐紙の美しい色と風合い。

文様を彫った板木は650種類以上。唐長にある最も古い板木は1791(寛政3)年のものです。1000種類以上あったといわれますが、淘汰され、いいデザインが残ったのだと思います。板木に使うのは、朴の木。サクラなどに比べ、やわらかくて彫りやすく、夏目と冬目で差があまりないので、扱いやすいのです。
唐紙は空間を引き立てるためのものなので、色はあくまでやさしく控えめに。文様に現れる独特の質感は鉱物を粉状にした、雲母によるもの。絵具や顔料に雲母、布海苔などを混ぜ合わせ、「ふるい」とよばれるガーゼを張った道具で板木に色をつけ、和紙を重ねて色をのせます。

このとき、版画で馴染み深い丸いバレンで擦り込むのではなく、手で撫でるようにして、やさしく色をのせます。雲母は木を好むので擦り込むと、木に残って和紙に写りません。色の配合もそうですが、マニュアルはありませんから、体で覚えた過去の経験を応用して、一枚一枚、加減を見ながらやります。乾けばほのかに立体感が生まれ、印刷では出せない独特の風合いが生まれます。手の加減、作り手の感性によって、同じ板木でも仕上がりが違う。それも唐紙のおもしろさです。

団扇のように丸い「ふるい」という道具に、絵具や雲母、布海苔などを調合した色を塗る。

板木に「ふるい」で色をのせていく。丸い形によって塗り残しなく板木に色をつけることができる。

和紙を重ねて板木の色を写す。強く擦らず、手でやさしく撫でて。経験でのみ習得できる技。

和紙に色がのったら外し、一日乾燥させれば完成。今回使用したおうど雲母は、乾くと黄金色に。

道具は至ってシンプル。だからこそ職人の技量が物を言う。

赤、青、黄の三原色と墨から、色を作ります。

ガーゼを張った「ふるい」は唐紙特有の道具。

100年単位で受け継がれるものの美しさを京都で感じてもらえたら。

iPhoneケースで次の世代へ意匠を受け継ぐ

襖や壁紙を手がける一方で、今は唐紙でグリーティングカードやiPhoneケースなど様々なアイテムを作っています。畳がない住まいが増え、襖として唐紙にふれる機会は少なくなっていますが、カードなどの雑貨なら、人から人へ渡って、手でふれて、見てもらうことができるでしょう。唐紙のやさしい文様は心を落ち着かせてくれると思います。
残念なことですが、今は文化がなくても生きていける時代です。コンビニで買えばお皿に移し替えなくても食事ができる。けれど、それではあまりに味気ない。美しいもの、おいしいものを楽しめるのは、人の特権。日々の暮らしを大事にすることが感性を養い、文化を育むことにつながるように思います。
京都にいると、ふと見上げた町家の屋根に積み重ねた時間が感じられたり、日常の中で美しいものと出会えます。子どもの時は気づかなかったけれど、つくづくかけがえのないものに感じます。100年単位でつくられたものに京都でぜひ触れていただきたいですね。

唐長修学院工房

寺社及び文化財建造物の襖、壁や美術館の文化財の唐紙修理復元。唐紙づくりの体験工房。

  • 京都市左京区修学院水川原町36の9
  • 火曜、祝日定休/不定休あり。
  • TEL.075-721-4422
  • http://www.karacho.co.jp

※ 工房のため完全予約制