古都に建つ、最上質なラグジュアリー・アーバンリゾート。
極上の空間にふさわしい“ストーリーのある庭”を創造

ザ・リッツ・カールトン京都の庭園計画を担い、第一線の作庭家として国内外で活躍する野村勘治さん。作庭のほか、庭園研究や調査、保存など庭園のエキスパートでもある野村さんは、京の伝統文化や故事にも造詣が深く、その技と感性と知識を駆使して、美と調和に満ちた類稀なる庭を完成させました。「四神相応」の思想を取り入れた、この美しき庭に込めた思いを話していただきました。

二条大橋・鴨川のほとりに佇むザ・リッツ・カールトン京都

二条大橋・鴨川のほとりに佇むザ・リッツ・カールトン京都

Kanji Nomura

野村 勘治(のむら かんじ)

(有)野村庭園研究所代表
1950年愛知県生まれ。東京農業大学短期大学卒業。重森三玲氏に師事し、作庭のかたわら桂離宮・金閣寺・竜安寺等名園の実測は百数十庭を数える。愛・地球博日本庭園監修など。京都林泉協会副会長。日本庭園学会理事。三重大学非常勤講師。東京農業大学造園大賞受賞(ヨーロッパの7つの日本庭園作庭に対し)。

伝統を継承する心を芯に据え、
新たなるストーリーを生み出す

ザ・リッツ・カールトン京都は、鴨川のほとり、東山三十六峰を一望する場所にあります。1200年の歴史ある京都の街中の、しかも関西財界の重鎮、藤田財閥の創立者である藤田傳三郎男爵の京都別邸があったという由緒ある地に新しいホテルを建築するにあたり、庭園計画を担当させていただくことになり、大変な責任を感じると同時に、気持ちが高揚したことを覚えています。まず、ホテル本体の空間計画に日本の伝統的なデザインや職人技を取り入れて、京都の伝統文化のエッセンスが満ちるプランになっており、庭園と建物が一体となった素晴らしい空間を目指そうと考えました。ともに働くチームの皆さんは、ほとんどが京都迎賓館の仕事に携わったプロジェクトチームのメンバーの方々でしたので、安心感もありましたし、「民間の迎賓館を創ろう!」という思いで、ともに取り組むことになりました。私が最初に考えたことが「ストーリーのある庭づくり」ということでした。
その中で大切にしたのは「継承」ということ。藤田邸があったころの、灯篭や庭石、滝石などは余すことなく再利用することにしました。もう一つ、「温故知新」も大切な柱であり、特に小堀遠州の「綺麗さび」に学ぶことを心がけました。雅びやかでありながら、武家らしく、潔くすっきりとした美しさも合わせもつ遠州の世界観。彼のつくった庭園は王朝趣味、中国趣味、わびさびの思想が一つに融合し、心地よい軽快さが全体を包み、非常にインテリジェンスを感じさせます。遠州の「綺麗さび」を意識しつつ、和のモダンな感覚が随所に生きる庭園コンセプトを考えていきました。

東西南北に四神を配し、いにしえの都の造営に思いを重ねて

さまざまな可能性を探るなかで、庭園コンセプトの中心に据えたのが、京都という王城の地の礎となった「四神相応」の思想です。四神相応は、東アジアや中華文明圏において、大地の四方の方角を司る「四神」の地勢や地相のことで、風水に基づく吉相の地を意味します。この京の都も国家や子孫繁栄を願い、四神相応に従って造営されました。平安時代の京の都における四神は、北の山=船岡山が「玄武」、東の流水=鴨川が「青龍」、南の窪地(湖沼)=巨椋池が「朱雀」、西の大路=山陰道が「白虎」をそれぞれ表しています。ホテルの庭園計画においても、当時の都の造営に発想を得て、全体を4つのブロックに分けて、外空間の意匠を四神に対応させるようにしました。

「玄武の庭」

「玄武の庭」

まず5階北側(スイート TSUKIMI)に「玄武の庭」を展開しています。色彩は玄武にふさわしい黒を基調にし、亀をイメージした亀甲模様の竹垣を配し、ここでは比叡山を玄武の山とし、九頭龍垣(くずりゅうかき)を比叡山に重ねました。比叡山の麓、修学院離宮の上離宮隣雲亭(りんうんてい)の土間にある花模様の蓙(ゴザ)に見立てた一二三石(ひふみいし)が有名ですが、こちらの石庭にその意匠を取り入れています。スイート TSUKIMIに配した月見台からは大文字も見えます。

「天の青龍庭」

「天の青龍庭」

同じく5階の東側(ガーデンテラススイート・ガーデンテラススイート TATAMI)には「天の青龍庭」を作庭しました。
江戸時代、小堀遠州が仙洞御所の東側庭として南北に長い区画の池に、8つの異なる橋を架けた「橋づくし」の庭をつくりましたが、この故事にちなんで、遠州好みの王朝庭園の遣水に見立てた枯流れをつくり、そこに石橋5基、木橋2基、沢渡り1つの計8基の八橋を架けています。

「朱雀」

「朱雀」

[南]を守るのは朱雀です。ホテルのエントランスに、窪地(湖沼)を表す水辺をつくりました。
そして赤を表すモミジとサクラを植え、さらに朱雀が舞い降りた姿をモチーフにしたシダレザクラを配して、[南]のシンボル的存在としています。


さらにこの場所には、以前のホテルの玄関にあった朝鮮型八角灯篭を立てています。「八方を明るく照らす」存在とし、さらに異国的、つまり、国際的なホテルであることを示すと共に、伝統の記憶を大切に繋いでいくという思いを込めています。

「白虎」

「白虎」

[西]の白虎は、西側の細いスペースを活用して、白砂によって縞模様を描き、虎に見立てた庭園をつくりました。南画などに描かれる「棲虎林」(せいこりん)にちなんで、竹林を配置しています。細い露地は、四神相応において西にあるべき大道を表しています。

中央の芯の部分に須弥山(しゅみせん)を立て、仏教の世界観を高らかに表現

ホテルの中央部分は、地下2階から2階まで立体的に展開する中庭となっていて、ここでは「九山八海」(くせんはっかい)という仏教の世界観を表しています。
まず、一番低い地下2階の部分に、須弥山としての宝塔形灯篭を立てました。

それに対し、1階の白砂に立てた織部灯篭は、人間世界の須弥山的な存在になっています。須弥山に見立てた宝塔や灯篭には、このホテルが未来永劫に栄えて欲しいという、祈りを込めています。

夜になるとこれらを取り巻くLEDが点灯し、リング状に連なって、仏教界の九山に連なる山々として浮かび上がって見える仕掛けになっています。

撮影:Nacasa & Partners
写真提供:アートフロントギャラリー

また、この庭は別名「歳寒三友の庭」(さいかんさんゆうのにわ)という名も持っています。
中国の文人画で好まれる画題の一つで、友の理想を植物にたとえた「歳寒の三友」にちなんで、冬でも青々とした松(アカマツ)、雪にも折れない竹(笹)、寒さに耐えて咲く梅という、日本でもっともめでたい松竹梅を取り合わせて植えています。

それから、建物の東北の角を2平方メートルほど欠かせて、ヒイラギナンテンを植えていますが、これは「鬼門除け」の役目を持たせています。ここにも、災いを防いで、ホテルの安全と繁栄を願う意味が込められています。宿泊した方しか見ることのできない庭もありますが、宿泊以外でもご覧いただける庭も多いので、ぜひ、ホテルを訪れた際に、思い出していただければと思います。

命あるものの営みを年々歳々見守る。それもまた作庭の大切な仕事

ザ・リッツ・カールトン京都は、シンプルで控えめなファサードを持ち、ファーストインプレッションは非常にゆかしさを感じさせます。しかし奥に進むにつれて、上質な華やぎが満ちてきて、贅なる空間が極まってくる、そんな空間構成になっています。知るほどにその深さがわかってくるあたり、京都の真の魅力に通じるものがあるのではないでしょうか。作庭にあたっては、建物との一体感、全体のバランスを非常に大切にしました。

建物にも経年変化はありますが、庭の場合は、命ある植物たちが主役ですので、それらは生きて育って、年々、変化していきます。たとえば、二年前は細く小さかったモミジも、今はすくすくと育っていますが、これも自然なまま育ちっぱなしにしては、庭園全体のバランスが崩れてきます。プロの植木屋さんが定期的に植物たちの養生をし、若い芽と古い枝を交互に切るなどして、調和を図ってくれているのです。青竹も色が茶色に変わっていきますが、時期をみて入れ替えるなど、継続的なケアは欠かせません。晴れの日もあれば、風雨にさらされる日もあり、そんな月日を重ねて、植栽もしなやかに大きく強く成長する。育ちながら、変わってゆく姿を年々歳々見るのも、庭をつくる仕事の醍醐味ですね。この仕事を続けていく中で、私がずっと変わらず持ち続けている思いがあります。それが、「昔の上手に学べ」ということです。これは「温故知新」に通じることで、たとえば遠州や私の師である重森三玲先生が作庭した庭から多くのことを学び、受け取り、そこから自分の世界を創造していくということです。このホテルには建物、内装、調度品、庭、そしておもてなしなど、隅々にいたるまで、伝統を重んじ、リスペクトする「温故知新」の心が満ちていると思います。そこにモダンな感性と現代的な快適さや利便性が加わって、このホテルらしさと魅力をかたちづくっているのでしょう。ホテルでゆったりとお過ごしいただく中で、庭園の美しさにも気づいていただき、楽しんでいただければ、こんなに嬉しいことはありません。華やかな春、涼やかな夏、鮮やかな秋、凛とした風情の冬。四季折々の変化もどうぞ、楽しんでいただきたいと思います。

ザ・リッツ・カールトン京都にご宿泊のお客様限定で
ザ・リッツ・カールトン京都の庭師と共にミニチュア日本庭園を造るアクティビティを開催中。
料金:4,000円/1名様(所要時間:1時間30分)

お問い合わせ 075-746-5555(ホテル代表)

ミニチュア日本庭園