心和む道具をつくり続けて。

平安神宮にほど近く、閑静な街並みの一角にある「小丸屋」の創業は寛永元年(1624)年。伝統の技を受け継ぎ、守りつつ、うちわをつくり続けてきた老舗です。うちわだけでなく、花街の春の踊り「北野をどり」「都をどり」「京おどり」「鴨川をどり」など、各流派の舞踊会を支える扇子や舞扇などの小道具も制作しています。なつめ型のたおやかな風情の「新深草うちわ」を始め、現代のセンスにマッチするモダンなうちわ、雅びで華やかな扇など、人を癒す美しい和の道具をつくり続ける「小丸屋」。その歴史、今、そしてこれからについて、十代目女将、住井啓子さんにお話を伺いました。

京うちわ 切り絵 飛天

住井 啓子さん

Keiko Sumii

住井 啓子さん

1624年創業の「小丸屋」の長女として京都に生まれる。2003年から同店の十代目当主として代表を勤める。江戸時代に原型をもつ「深草うちわ」を新しい感覚で蘇らせた「新深草うちわ」の開発や、伝統文化の発信基地として「小丸屋サロン」のオープンなど、京都の伝統を受け継ぐ中で培ってきた技と知識、そして美意識の継承と発信に力を入れている。

日本画家浜田泰介氏の絵が描かれた夏扇子

時代とともに、姿も役割も変遷してきたうちわの歴史。

うちわの歴史は古く、五世紀頃に中国より伝わったといわれていますが、当時は「翳(さしば)」と呼ばれ、祭祀の道具として用いられたり、高貴な位の高人々が人目を遮る為にかざす道具として使われてきました。室町時代になると、水墨作家たちが花鳥風月などを描くようになり、意匠を凝らした美術工芸的なうちわが登場しました。江戸時代には「あおぐ」「虫をはらう」など、暮らしの道具として庶民の間に普及しました。当家の先祖は黒谷より深草へお寺と共に移ったことで帝より、「深草の竹を使ってうちわを差配せよ」との命を受けうちわ作りが始まったと伝わっており、それが「深草うちわ」の始まりです。先祖は近くの瑞光寺に庵を結んでいた元政上人と歌仲間だったそうで、上人からなつめ形のうちわを提案されたのだとか。その形でつくったうちわに上人が歌を書かれ、これが大変評判を呼んで、「深草うちわ」として人気を博したと聞いています。『拾遺都名所図会』にも「深草の里 団屋店(うちわやみせ)」として深草うちわを売る店が描かれており、当時を偲ぶことができます。

※「元政上人」 http://zuikouji.jiin.com/#_6

うちわを掛け替えて楽しめる「うちわ掛け軸」

偶然の出会いから、途絶えていた「深草うちわ」を復元。

一世を風靡した「深草うちわ」は、明治になって衰退していましたが、あるご縁から、その復元が実現しました。「都をどり」の舞台の小道具について、「深草うちわ」の生みの親の元政上人様のことを50年以上も研究されておりその「深草うちわ」を探しておられた龍谷大学名誉教授の宗政五十緒先生(故人)とご縁がありました。先生が探しあぐねてらしゃった「深草うちわ」こそ小丸屋住井家が作っていたものということを申し上げたところ、大変にお喜びになり復元をすることが決まりました。先生のご指導のもと、2000年の「都をどり」の舞台で、「深草うちわ」のお披露目をすることができました。うちわが結んだうれしいご縁ですね。さらに、先生に監修をしていただいて、うちわに「都名所図会」などを描いて彩色した「新深草うちわ」をつくりました。「都名所図会」は、今で言えば京都ガイドブックのような本ですが、祇園祭や五山の送り火など京都の風物や祭事、都の街の様子が生き生きと紹介されていて、今、見ても心がわくわくしてきます。現在、このシリーズは全157景あり、そのうち京都を描いたものが114景で、やはり京都は人気ですね。お客様の中には毎年、京都に来られるたびに、思い出と1本ずつ、「新深草うちわ」をお買い求めくださる方もおられます。「新深草うちわ」は徳島産の真竹の骨に、琵琶湖の葦(よし)紙を張り、職人が昔ながらのつくり方で丁寧につくっています。葦紙は琵琶畔の葦を漉いてつくった和紙ですが、葦は魔を祓うともいわれています。また、葦は水を浄化する作用があり、葦を刈ることで新たな芽吹きを促し、自然の循環を助けて、私たちの命の源、琵琶湖への恩返しをするという思いも込めています。

“お客様にとことんお応えする”。同じ志、同じ思いを抱いて。

ザ・リッツ・カールトン京都さんには、開業以来、プライベートのパーティーをお願いしたり、家族や友人とお食事やお茶を楽しみにしょっちゅう伺っています(笑)。この空間にいるといつも感じるのが、ここならではのラグジュアリーが凝縮されているということ。何よりも京都を、そして京都の伝統工芸をリスペクトして大切に作られたホテルということが、京都の人間として嬉しいですね。”お客様のご要望にとことんお応えしたい”。これは私がいつも抱いている思いですが、それに通じるものを、こちらのホスピタリティにも感じることができます。今年は、開業3周年ということで、ザ・ロビーラウンジで小丸屋のうちわや扇の作品展をさせていただきました。

3周年のテーマは「美・芸術・伝統」がキーワードと伺っていますが、私にとってもこの3つの言葉はとても重要なものです。まず「美しさ」は、心だと思います。見た目だけでなく、内側から滲み出てくるものこそが真の美といえるでしょう。「芸術」は、感性と技、そして情熱の賜物。つくり手の思いが深く熱いものほど、人に感動を与えることができるのだと思います。そして「伝統」は、人の手と心が長く積み重ねていくもの。とくに伝統工芸は、「美・芸術・伝統」のすべてを内包していると思います。見て美しく、触れて心地よく、そして使いやすくて、役に立つもの。「用の美」とはまさしく「美・芸術・伝統」の結晶ではないでしょうか。

花鳥風月の世界を雅やかに映し出す、はんなりと美しい扇

洗練された意匠は、洋風のインテリアにもシックに馴染む

モダンながらも伝統美が感じらるデザインで空間を演出する

住井 啓子さん

美意識と伝統が息づく京の地で
心をつなぐ道具をつくり続けたい。

「美・芸術・伝統」が長く受け継がれ、守られてきたのが、京都という地です。先人の苦労と知恵の上に成り立つ文化が、ここには隅々まで息づいています。それらは一度途絶えてしまえば元には戻せない。京都の人はそれをよく知っているのです。だからこそ、工芸品も、祭事も、芸事も、大切に脈々と受け継がれてきたのでしょう。その一端を担っていることは、私にとっても誇りです。じつは今、「小丸屋」の長い歴史の集大成として、写真集を製作中で、三年後の出版を目指しています。うちわや扇などの商品と、多彩な作家さんの作品とをコラボレートさせた美しい写真を載せて、文章は日本語、英語に訳して、全世界に発信していく予定です。また、2015年にオープンした「小丸屋サロン」は、うちわや扇のショールーム、作家さんの作品展を開くギャラリー、2つのお茶室を備えていて、京都の文化発信の拠点の一つとして育ちつつあります。不定期に開催している体験型の伝統文化セミナーがとても好評なんです。講義のあと、参加者のお名前を入れたうちわをお渡しして「筋入れ」という仕上げの作業をお一人ずつにしていただきます。ご自身が心を込めて仕上げた”マイうちわ”は、みなさんにとても喜んで持ち帰られますよ。このサロンで、伝統工芸に触れ、大切にいとおしんで使う喜びをお伝えできれば嬉しいですね。うちわは風を起こす道具であり、魔を祓い、その場を浄化するものともいわれています。相手を思いやる心で涼やかな風を送る、人と人の心をつなぐ道具を作ることはとても幸せなこと。これからも心をこめて、心和む美しいうちわをつくり続けたいと思っています。

小丸屋サロン

  • 営業時間 10:00 A.M. - 6:00 P.M.(定休日:不定休)
  • 〒606-8344 京都市左京区岡崎円勝寺町91-54
  • TEL 075-771-2229
http://komaruya.kyoto.jp/salon/