KYOTO STORY vol.03 京都から世界へ発信するクリエーション

PixCell-Double Deer#4 (detail)
Photo : Seiji TOYONAGA | SANDWICH

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名和晃平 × ザ・リッツ・カールトン京都

源氏物語をイメージした美術作品が、客室を含め館内に400点余り。美術館さながら、ザ・リッツ・カールトン京都のクラフトマンシップに呼応したアーティスト達の作品と出会うことができます。そのひとつ、ゲストを迎えるエントランススペースに展示する、名和晃平さんの作品 “PixCell-Biwa(Mica)”は、2014年2月に開業したザ・リッツ・カールトン京都のために「琵琶」をモチーフに制作されました。名和さんは、2011年、東京都現代美術館で個展「名和晃平 シンセシス」開催、翌年にはNYで発表した“PixCell-Deer#24”がメトロポリタン美術館に収蔵されるなど、その活躍は世界から注目を集めています。ガラスビーズや発泡ポリウレタン、シリコーンオイルなど様々な素材を用い、デジタルとアナログを駆使し、彫刻の領域にとらわれず活躍しています。京都の伏見にあるサンドイッチ工場をリノベーションし、創作のためのプラットフォームとする“SANDWICH”にて、創作の源、拠点とする京都についてうかがいました。

ザ・リッツ・カールトン京都のロビーに展示される、“PixCell-Biwa(Mica)”。時を超えて生まれ変わった美しい琵琶が観る人を魅了する。宿泊のお客様には、この作品をはじめ館内の美術作品を巡るアートツアーを開催しております。源氏物語をイメージした美の世界へご案内させていただきます。

Kohei Nawa

名和晃平さん

1975年生まれ。彫刻家。京都造形芸術大学准教授。京都を拠点とし、09年より創作のためのプラットフォームSANDWICHを立ち上げる。KDDIの携帯電話ブランドiidaのコンセプトモデルの制作、NYのコムデギャルソンチェルシーにアートワーク設置するなど、クリエイターや企業などとのコラボレーションも手がけ、国内外で活躍する。

名和晃平公式サイト http://www.kohei-nawa.net/jp/

SANDWICH http://sandwich-cpca.net/

Photo : Nobutada OMOTE | SANDWICH

源氏物語をコンセプトに
“PixCell-Biwa(Mica)”が生まれるまで。

“PixCell-Biwa(Mica)”は、ザ・リッツ・カールトン京都で飾られるアートワークのメインコンセプトである「源氏物語」から生まれました。母が古典の教師で源氏物語を専門にし、祖母は日本人形を作り、教えもしていたので、源氏物語の世界は少なからず親しみがありました。雅楽の楽器、日本人形、絵巻に描かれる往事の乗り物など、さまざまなモチーフが候補に上がりましたが、空間とのバランスなども鑑みて琵琶にたどり着きました。
ザ・リッツ・カールトン京都は、源氏物語を新しい解釈で表現しています。その有り様とも響き合うように、古い琵琶を修復し、表面に雲母に似た光を放つ塗料を塗って生まれ変わらせ、それからガラスビーズで覆っています。琵琶には様々な様式があるのですが、ニュートラルに琵琶のイメージを打ち出したかったので、姿形を重視しました。これまでにもヴァイオリンやギターといった楽器をモチーフにしたことがありますが、琵琶は楽器の中でも、色っぽいですね。光がガラスビーズに緩衝して、角度によって色が変化するので、動いて見てもらってもおもしろいと思います。

“PixCell-Biwa(Mica)”。琵琶がモチーフになったのは今回が初めて。透明なガラスビーズに覆われ、琵琶表面に塗られた色や光の反射による相乗効果で様々なイメージを見せる。

100年後に伝える"PixCell"。

“PixCell”(ピクセル)とは、Pixcel(ピクセル)=画素、Cell=細胞・器(セル)を表す造語で、作品制作の主軸となる独自の概念です。PixCellシリーズのBEADS作品は、対象となる物体を透明のガラスビーズで被覆することで、物体そのものの存在を「光の殻」に置き換え、「映像の細胞」という新たなビジョンを提示します。モチーフはすべてインターネットで収集。オークションサイトにキーワードを入力して検索し、モニター上にPixelとなって表れたイメージから選ぶ。自身の考えはあえて排除し、コンピュータに選ばせます。 “PixCell-Biwa(Mica)”もこの手法で制作しています。
インターネットの普及によってありとあらゆるものがデジタル化されていく、2000年頃に感じた止めようのないデジタル化の波が、“PixCell”シリーズの発端になりました。文明にとってデジタル化もまた必然の流れかもしれませんが、そのただ中にいて目の当たりにしている現象と、移りゆく世界を表現する上で、従来の彫刻のフォーマットにとらわれる必要はないと考えました。

コラボレーションによって広がるSANDWICHのクリエーション。

現代美術の道に進もうと思ったのは、ロンドンの英国王立美術院に留学していたときです。それまではどうも現代美術が胡散臭く思えて(笑)、積極的には関わってこなかったんです。京都市立芸術大学彫刻科在学中は京都や奈良で仏教彫刻にふれ、留学中はヨーロッパの宗教美術を観てまわりました。けれど感銘を受ければ受けるほど、これ以上素晴らしいものを今の世でつくることなんてできない気がしたんです。ロンドンでさまざまな現代美術にもふれ、何年も残り続けるものを生み出すには、自由なスタンスで制作できる、現代美術が適していると思ったのです。
クリエーションの拠点は、京都。宇治川沿いにある伏見のサンドイッチ工場跡地をリノベーションし、クリエイティブ・プラットフォーム「SANDWICH」を始めて、6年目になります。淀にあったアトリエが手狭になり、たまたま見つかったのがサンドイッチ工場の跡地だったから、SANDWICH。自分自身の拠点であり、アーティストやデザイナー、建築家など様々なジャンルのクリエイター、海外からのレジデントが集い、コラボレーションを展開する場でもあります。ここができたことで作品制作のスピードが格段に速まり、様々なコラボレーションによってクリエーションの可能性も広がりました。昨年、正式に一級建築士事務所として建築チームを立ち上げ、現在は店舗や住居、美術館などの建築もSANDWICHとして積極的に手がけています。建築を手がけることで見るものの視野も広がるし、作品制作においての刺激にもなります。ジャンルに境目はなく、すべてが糧となってつながっていきます。外国人には必ず名前を聞き返されますが(笑)、SANDWICH自体がアートになればと思います。「サンドイッチ」を超える気持ちで成長したいですね。

PixCell-Double Deer#4 (detail)
Photo : Seiji TOYONAGA | SANDWICH

塗料やガラスビーズなどの質感の表れ方を、調合を細やかに変えながら試す。様々な形のオブジェは造花や緩衝剤にウレタンを吹き付け、ボリュームをテストしたもの。試作を重ね、作品が生まれる。

大徳寺
茶の湯文化と縁が深い、京都の紫野にある大徳寺。20余りの塔頭が集まる、臨済宗大徳寺派の大本山で、京都五山のひとつ。写真は山門

京都で受け継がれる美しいものに惹かれて。

京都を拠点にするのは、京都造形芸術大学で教えているということもありますが、東京で制作する自分が全くイメージできなくて。海外に出て活動することも視野に入れて、ベルリンやニューヨークにも住んでみましたが、わざわざ出る必要性が見出せませんでした。2006年、淀にスタジオをもった当時は、京都を拠点にするアーティストは少なく、東京や海外へ出るしか道はないという感じだったので、チャレンジではありましたが、時間もスペースも得やすく、活動しやすい京都を選びました。京都は住むうえでも楽しく、昔から受け継がれるものがすぐそばにたくさんあって、奥行きがある。寺社仏閣をめぐるのも好きです。大徳寺は住空間として見てもおもしろく、借景の仕方や茶室のしつらいなど、見どころが尽きません。建築プロジェクトを始めたこともあって、以前にも増して魅力を感じるようになりました。庭園、建築、仏像……、京都では様々なものから100年後に残る美を見出すことができると思います。