花の世界に新風を起こした革命児。

クリスチャン・トルチュ氏と聞けば、花が好きな人たちなら、それが誰だかすぐにわかるでしょう。それほど、花の世界ではトルチュ氏は有名で、革新的なスタイルを生んだアーティストとして知られています。日本には華道があるようにフランスにも古典的に愛されてきたスタイルがありますが、そこへ新しい風を吹き込んだのがトルチュ氏です。世界中を虜にしたトルチュ氏のスタイルは、今も愛され続け、ザ・リッツ・カールトン京都でも館内のフラワーアレンジメントをすべてデザイン。2015年の春、ザ・リッツ・カールトン京都にてトルチュ氏本人が行うフラワーデモンストレーションやレッスンが開催され、多くのファンが全国から訪れました。自らも「来日が楽しみでした。日本の中でも特に京都が大好き」というトルチュ氏に、クリエーションや花の哲学について伺いました。

Christian Tortu

クリスチャン・トルチュ

自然あふれるロワール地方の農家に生まれ、幼少の頃から自然や花と親しみ、その深い造詣と視点から生まれる革新的なアイデアで一躍フランスのトップフローリストに。トルチュ・スタイルという新しい花のあり方を提案し、世界中の人々を魅了する。カンヌ映画祭公式パートナーとしてメイン会場の装花や、オートクチュール・コレクションのコーディネートを手掛ける。ザ・リッツ・カールトン京都では、館内に置かれる花はもちろん、ウエディングの装花にいたるまで、すべての花の監修を行っている。

Photo : Alexis Armanet

アレンジメントを披露するトルチュ氏。デモンストレーションもレッスンも大盛況。

パリの人々を驚かせたトルチュ・スタイル

クリスチャン・トルチュ氏の名前が一気に知られるようになったきっかけは、古典的な花のアレンジメントの世界に、まったく違った考え方とスタイルを提案したことでした。「ヨーロッパの絵画を見ると分かりますが、花を生けるという習慣は、北側の寒い国から始まったのだと思います。花の時期が短い地域では、人々は春を感じさせるそれらを室内に飾ったのでしょう。南側の温暖な気候の国になるほど、常に庭に花が咲いているので、アレンジメントのスタイルやテクニックより、より自然な花のあり方で親しまれている気がします」。

こうして発達したフラワーアレンジメントに、一石を投じたトルチュ氏のスタイルは、「ありのままの自然、花や草に敬意を持って、室内に持ち込む」ということでした。「パリの人々の生活を見たとき、彼らの生活には自然が足りないと感じたんです。彼らに自然を、庭を提供したいと考えました」。そこで、それまで当たり前だった温室育ちの端正な姿の花に、野生の花を合わせたり、野菜を添えたトルチュ氏。「庭には、バラと一緒にベリーなどの果実も一緒に共存しています。それが、私にとって自然」と、バラとベリーやイチゴを仲良くアレンジし、すました顔のバラではなく、自然に美しい姿を提案。それが、トルチュ・スタイルと呼ばれ、パリの人々を驚かせつつも、心が和む新しいスタイルとして受け入れられました。

トルチュ氏の提案で、まずはデモンストレーションから始まった優雅なインタビュー。穏やかな口調で、花や自然を語るときはまるで哲学者のよう。

日本の華道を思わせる自然な花のあり方。

「ヨーロッパでは、私のアレンジメントを見て、東洋的ですねとか、日本的ですねと言う人が多いんですよ」と笑うトルチュ氏。
そう思わせる最大の要因は、トルチュ氏がすべての花や草木に敬意を払い、それらを受け入れて生けるためかもしれません。トルチュ氏は形の整った花だけを選り好んで使うのではなく、自由に咲き、自由な方向を向いた花たちを、自然な姿のまま扱います。それは、日本人が山野で咲いた花や草を、あるがままの姿で生けるのと同じ。首を傾げた花の姿も、その姿が美しく見えるように生けます。
トルチュ氏にとって、高価なバラも、草原にそよぐ草も平しく価値あるもの。草をたっぷりとあしらったグリーン一色のブーケは、ヨーロッパの人々を驚かせましたが、日本人の私たちにとっては、美しくもどこか親しみを覚えるスタイルでした。それが、日本でもトルチュ氏の花が、多くの人に愛されている理由かもしれません。「だから私は、花を通じて、西洋と東洋を結ぶことができればと思います」。

桜を使ったアレンジメント。「大きな枝ものから先に」と、ポイントを分かりやすく解説しながら、デモンストレーションが続く。

型を知るからこその型破り。

「まずは私の花を見てください」という、何とも嬉しいトルチュ氏の提案により始まった取材。 ほんの10分ほどで、春を思わせるアレンジメントが完成しました。桜に真っ赤なアンスリウムやカラーが添えられ、ちょっと面白い組み合わせに思えますが、バランスが美しく違和感がありません。そのコツを伺うと、「自由に生ければいいんです。好きなように。でも、基本の形を知ることは大切です。私は何度も何度も、嫌になるくらい古典的なブーケを作りました。基本の形をマスターして初めて、その形から自由になり自分らしいスタイルができるのだと思います。ですから皆さんも、まずは生けてみてください、失敗してもいいんですから」。

故郷の草原に咲く自然な花の姿と、古典的なスタイルの型を理解し尽くしたトルチュ氏だからこそ、生み出せる絶妙なバランスといえます。そんなトルチュ氏だからこそ、新たな「ブーケ・ロン」という丸いドーム型のスタイルを提案できたといえます。かつてのボリューム感を重視したものとは違い、らせん状に茎を束ねてギュッと花を集めたブーケは、持った姿だけでなく、そのまま花器へ生けても、美しい姿をキープします。現在、一般的になったこのスタイルを発案者は、実はトルチュ氏なのです。

日本への理解と愛情を伝える花。

まさに花の世界の革命児とも言えるトルチュ氏ですが、決して伝統や文化を否定しているわけではなく、むしろその逆。「私は融合を目指しています。だから、伝統とモダンは共存できるのです。それをザ・リッツ・カールトン京都は実現できるホテルだと思っています。京都は世界で一番好きな場所で、イメージすると庭園を思い出します。京都にはたくさんありますよね。そして、調和が重要視される世界。ベージュやグリーンといった色をイメージさせますし、静寂と崇高さが貫かれています。ですから、ザ・リッツ・カールトン京都では、トロピカルな花は使わず、枝やグリーンを多く使うようにしています。それはこのホテルにも日本庭園や滝があり、自然が身近にあるためです。庭と空間を繋ぐ花を意識しています」。

ザ・ロビーラウンジやコンシェルジュデスク、レストランや客室など、館内に置かれたトルチュ氏の監修による花を、ぜひじっくり見てください。どこかにトルチュ氏ならではの、京都への愛情が感じられるはずです。そして、ウエディングの装花にもトルチュ氏らしい哲学が。「京都では伝統を重んじますし、ウエディングには新婦の夢が詰まっています。ですから、あえて無理にルールを壊したりはしません。もちろん、それを望まれる方にはさまざまなことを提案できますよ。ですから、リクエストは歓迎です」。

トルチュ氏が提唱するドーム型のブーケ・ロン。

100本を越えるバラが、見事な手さばきで束ねられていく。

らせん状に束ねると、花のボリュームを調整することも簡単にできるため、美しく合理的な手法。

日本らしさをさり気なく表現。

後日行われたトルチュ氏によるデモンストレーションは、満員御礼の盛況ぶり。4つのアレンジが披露されました。
ずらりと並べられた花の中で特に目を引いたのが桜。「絶対入れたかったのは桜。私にとって日本はもちろん、京都をイメージさせるもので、まだ時期には早いですが、スタッフに頼んでそろえてもらったんです」。そして、お気に入りだと紹介されたのが、ラナンキュラス。「フランスでも栽培されていますが、この日本のものが特に好きですね。見てください、柔らかな花弁としなやかで長い茎の表情が美しいでしょう? フランスのものは、もっとぎゅっと詰まった感じで、このような表情が出ません。小さな椿の花なども好きです」と、パリでも日本の花をアレンジメントに使うそう。テーブルコーディネートには、自身も好きだという陶器と漆器を組み合わせ、葉を使ったアレンジが印象的。まるで、日本料理に竹の葉があしらわれるような感覚です。さまざまなアイデアが忍ばされたアレンジは、自宅での花の楽しみ方の参考になります。