和束町のお茶の味わい

2017年1月のある日、ザ・リッツ・カールトン京都のザ・ロビーラウンジに、チェンバロの美しい音色が響いていました。ゆったりとお茶を楽しむ女性たちの目線の先には、作務衣姿の男性。この日は「和のアフタヌーンティー」と題した、日本茶と料理やお菓子を楽しむイベントが開催されていたのです。ゲストのみなさんに、お茶の味わいや美味しい飲み方を説明している男性は上嶋伯協さん。江戸時代から続く京都府和束町の茶農家の5代目で、優れたお茶の鑑識眼をもつ煎茶師です。

ザ・リッツ・カールトン京都では、上嶋さんがブレンドした煎茶「山紫水明」を販売するほか、同じくザ・ロビーラウンジで行われる古儀藪内流(こぎやぶのうちりゅう)点前でも、上嶋さんの抹茶をふるまっています。上嶋さんのお茶普及活動について、また和束町のお茶の味わいについて、お話しいただきました。

Noriyasu Uejima

上嶋 伯協さん

昭和30年12月8日生まれ 61歳。 江戸時代から続く茶農家の跡取りとして生まれる。最高級の宇治煎茶の生産地として知られる和束町の茶農家の中でも中心的存在で、約90年の歴史を持つ闘茶会(京都府茶審査技術競技会=宇治茶に携わる茶業者で行うお茶の鑑識眼を競う大会)において、過去唯一人満点を獲得し優勝した実力を持つ『お茶の達人』である。地域力推進協議会の代表として、「和束茶カフェ」「天空カフェ」を開設など、新しい試みでお茶の魅力を伝える活動を行う一方で、「和束おもてなし煎茶師」制度などを通じ、日本遺産となっている和束町の茶畑の景観を保全・PRする活動にも尽力している。

なぜ宇治茶が美味しいのか

お茶は、かつては高貴な方が薬として飲んだものでした。煎茶の葉を薬研で挽いて飲んでいたそうです。宇治でも鎌倉時代からお茶が栽培され、室町時代には、将軍家や有力武将が宇治に茶園をもつようになりました。そんななか、戦国時代以降、宇治では、お茶の樹に藁をかけ、霜よけをして育てていました。ところが、ある茶園では、霜がおりない時期になっても藁をかぶせたままにしていたのです。そのお茶を手で揉んで淹れてみると、なんとも甘く美味しい。それが玉露の始まりです。お茶の産地としては、静岡や鹿児島のほうが生産量は多かった。それなのになぜ宇治茶が高級煎茶の産地として認められるのか? 実はこの旨味の濃い玉露の開発があったからなのです。

摘み取った茶葉を蒸して乾燥させたものが碾茶(てんちゃ)で、それを粉にしたのが抹茶です。16世紀後半に、「蔽い下栽培」と呼ばれる栽培法が開発され、格段に旨味を増した宇治の抹茶は、天皇や公家のほか、将軍たちにもその味を認められ、飲まれるようになりました。宇治のお茶が今も美味しいと愛飲されるのは、そういった先人の努力や工夫があり、それを受け継いできたからです。

和束のお茶の歴史と特徴

お茶は栄西禅師が中国から持ち帰り栽培し、広げたものです。栂尾(とがのお)高山寺には今も栄西禅師が贈った茶を植えた最古の茶畑が残っています。その栄西禅師から茶の木をもらった磁心(じしん)上人が、和束に茶を植えたのですが、ここで不思議なのは、どこが茶の栽培に適した土地であるかがわかっていたのかと思われるほど、煎茶に相応しい場所だったのです。現在のように地質を調べるといったこともできませんし、まして磁心上人が都から遠く離れた和束町のことを知っていたとは思えません。けれど、磁心上人は、和束町を選んで種を蒔き育てました。和束の土地が煎茶を育てるのに適していることは、今は科学的にも実証されています。

宇治田原がかぶせ茶の産地である一方で、和束町では代々煎茶をつくってきました。静岡などで採れる深蒸しのお茶ではなく、黄金色の水色が特徴の浅蒸しのお茶です。この煎茶は、少し角がありますが、薫り高く熟成すればするほどうまみが増すのが特徴です。新茶の時は、香りはいいけれど味わいでは玉露にかなわない。ところが、新茶の時期に摘み取ってしばらく置き、秋や冬に飲むと、熟成して旨味が濃くなるのです。まるでワインのように味わいが変化していくのですね。

現在和束町の人口は4200人、そのうち300人が茶農家です。ですが、抹茶の生産量では日本一。というのも、和束町では、お抹茶として飲むお茶だけではなく、お菓子や料理などに用いる加工用の抹茶を作っているからです。そういう意味では、田舎ではありますが、いちはやくお茶の利用法を広げた先進的な町でもあるのです。

おもてなし煎茶師とは?

今、私が憂えているのが、日本の家庭で急須を使ってお茶を淹れなくなったことです。かつては、家庭のテーブルの上には急須、茶葉があって、家族で話をしながらお茶を淹れて飲んでいました。単にお茶を味わうというよりは、そこに家族が集まる団らんの場だったわけです。ところが、最近では、食事のときに、キッチンでお茶を淹れてテーブルに運ぶ。なかにはペットボトルのお茶ばかりを飲んで過ごすご家庭もあります。それでは、なんだか寂しい。団らんの時間までが少なくなっているように思えます。

今の若い人に伝統文化を知ってもらい、受けいれてもらうためには、カッコよくないといけません。本当にクールなものとはなにか。流行りや時代の流れによって動かされない、変わらないもののカッコよさを表現していきたいと思います。そんななかで、10代20代、私たちと同世代の人が少しでも、和の国・日本の歴史や伝統、お茶の世界をカッコいいと感じて、何らかの伝統文化に取り組んでくれれば、日本の文化はさらに広がりを見せることができる。きっと次代にも世界にも残るものになると思うのです。その1つとして和束・おもてなし煎茶師®という活動をしています。

たしかに煎茶を急須で淹れるのは手間がかかります。けれど、自分なりに茶葉の違いがわかると、今度はお茶を淹れること自体が面白くなります。茶葉に対するお湯の割り合いや温度、蒸らし方、注ぎ方など、ちょっとしたことで、微妙に味わいが変わります。とても奥深い。だからこそ、極めたいと思い、その魅力にはまるのです。うちのお客様のなかにも急須でお茶を淹れて楽しむうち、自分好みの煎茶を見つけるほどになられた方もいらっしゃいます。

美味しいお茶を淹れられるようになると、それを他の方にもふるまいたくなります。最初のうちは、自分好みのお茶を淹れてさしあげますが、経験を重ねると、相手の方を思って淹れるようになります。その方の年齢や好み、またそのときの体調なども考えて、お茶を淹れるようになるのです。暑いときには、爽やかな香りや味、温度も低めにするなど気候によっても淹れ方を変えておだしする。それはまさにもてなしのお茶です。そんなふうにお茶を淹れられるようになれば、家族やお友達をお茶でもてなすことが、自分の楽しみになっていきます。

お茶は淹れる人によって、その味わいが変わります。和束・『おもてなし煎茶師』とは、一杯の煎茶を通じて自分の心を潤し、おもてなしの心を表現する人です。 「古より伝わる日本のおもてなしの心を、一杯の煎茶を入れることで表現する、日本文化の伝道師」です。おもてなしの心とは、客人の気持ちを思いやることで、自然と生まれる感謝の気持ち。一杯の煎茶を通して心を交わし、喉の渇きと魂を潤します。

そんな活動のひとつが、2015年に、日本がホスト国となって開かれた「国際会議WAW!2015」の会場でのパフォーマンスでした。オリジナルブランドの茶葉『和美茶美』を安倍首相夫妻やケネディー前アメリカ駐日大使に召し上がっていただきました。召し上がった方はみなさん、「今まで飲んだお茶とは、全然違う」と驚かれたのが印象的です。おそらく、海外の方のほとんどは、お茶といえば抹茶というイメージがあったのではないでしょうか。煎茶の美味しさをあらためて知っていただいた、貴重な機会になりました。

ザ・リッツ・カールトン京都の古儀藪内流点前で出されるお茶はどんなお茶?

今回、藪内流の若宗匠とのコラボレーションに用いる抹茶は、上品な香りがあり、旨味や甘みがたっぷりある。けれど、飲んだ後の口中はさわやか。渋みが前面にでないのに、薄茶(うすちゃ)にすると飲みやすくかろやかで、ついもう一服いただきたくなるような味わいです。抹茶が初めてという海外の方にも抵抗なく召し上がっていただけることでしょう。
抹茶の樹を育て、摘み、蒸して乾かし、石臼で挽くという、全行程を私が手がけました。茶葉は摘みとるタイミングも大切で、今日だというときに摘んで加工するのが一番です。手塩にかけて育て、飲みごろを見極めた抹茶。そんな自慢の抹茶を茶人に点てていただける幸せ。
極上の味と香り、至福のひとときをみなさまにも感じていただければ幸いです。

ザ・リッツ・カールトン京都では定期的にザ・ロビーラウンジにて
「和のアフタヌーンティー」イベントを開催しています。
イベントの詳細はこちらをご覧ください。

https://www.ritzcarlton-kyoto.jp/special/

ザ・ロビーラウンジ